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『朗読者』
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『朗読者』 ベルンハルト・シュリンク著/新潮文庫

装丁写真とタイトルに惹かれて購入の本。恋愛小説かと思いきや
なかなかヘビーなテーマが潜んでまして。読後は「うーーん。」と考え込んでしまった。
3部構成で書かれたこの小説は、登場人物も少なくわかりやすくて難解(笑)。

15歳の少年ミヒャエルが、ある日21歳年上のハンナという女性と出会う。
そして二人は恋に落ちる。第一部ではこの二人の濃密な蜜月な時間が描かれる。
15歳の少年と36歳の女との恋愛って成り立つの?とは思いつつ
実はこの21歳の年齢差は、のちのストーリー展開に重要な意味を持つのだけど
同じ年頃の息子を持つ身としては、18歳と39歳くらいの設定にしていただきたいと(笑)
ま、少年が年上の女性に憧れ恋するというのは、古くから小説のテーマとしては
用いられてきてはいますけどね。
で、この二人の蜜月は、ハンナが突然姿を消してしまうことで断ち切られる。

第2部で二人は思わぬ場所で再会する。
法学部の学生となったミヒャエルは、ゼミの履修である裁判を傍聴する。
その裁判の被告席に、ハンナが座っていたのだ。
それは戦犯を裁く裁判。ハンナはかつて大戦中ナチの親衛隊に入隊し、収容所の監視として働いていたのだった。
この裁判を通して、ミヒャエルはハンナが隠していた秘密に気がつく。
ハンナはこの秘密を自分の「恥」と感じていて、裁判中も隠しとおす。そのために、受けなくてもいいような重刑を自ら進んで受けることになってしまう。

第3部は、裁判が結審してから数年後、ハンナが服役囚となってからの二人。
ミヒャエルの心はもがき苦しみながらも、再び塀を隔てたハンナと心を通わせあう。
不器用な手段ながら。


少年時代、年上の女性との性愛に溺れ、それが愛だと信じて(錯覚?)いた幼い想いが
長い年月を経て、顔も合わせない、言葉も交わさない、ただひとつの行為【朗読】を通して結実した恋愛ストーリー・・・・として読むこともできる小説ではあるけれど。
第2部での裁判を通して描かれる戦争。
戦後の自国民が自国民を(ドイツ人がドイツ人を)裁く戦犯裁判。
時代に流され巻き込まれ、戦犯となって裁かれるハンナ。
それを傍聴する戦後生まれのミヒャエル。
日本の靖国問題にも通じるものがある気がする。
戦争は誰が見ても悪いこと。でも、その戦争中は誰が悪かったの?
戦争が終わって誰がそれを裁けるの?
重いよ・・・・。

読み終わって、「感動」というよりは「重い」 が正直なところ。
「朗読者」というタイトルの美しさが、いっそう哀しい。
巻末の訳者あとがきに、再読が薦められていたけど、一度読んだだけでは重さだけが残る。
もう一度、何度か読むと感動できるのかな。
by varex | 2005-08-23 20:33 |
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